
つい行動したくなる仕組み
先日、ある店で「ポイントカードをお忘れになると、今回のポイントが付きません」という貼り紙を見かけました。「お会計時にポイントカードをお出しください」と言うより、なぜか行動したくなりませんか?
これこそが2017年ノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラー教授が提唱する『ナッジ』という考え方です。「軽くつつく」「そっと後押し」という意味で、人間の心理を理解して自然に望ましい行動を取りたくなるよう環境を整える手法です。
興味深い実験があります。東京・八王子市が大腸がん検診の受診率向上に取り組んだ時の話です。同じ内容でも、「受診すれば来年もキットをお送りします」(得をアピール)と伝えるより、「受診されないと来年はキットをお送りできません」(損をアピール)と伝えた方が、受診率が7ポイントも高くなったのです。
東京都八王子市の大腸がん検診受診率向上の事例


人は得をする喜びより、損をする痛みを2・5倍強く感じるといわれています。これは私たち経営者にとって、とても示唆に富んだ話ではないでしょうか。
スーパーのレジ前に貼られた足跡のシール、ありますよね。あれも立派なナッジです。「2メートル間隔を空けてください」と掲示するより、床の足跡マークの方が、人は自然とそこに足を置きたくなる。シンプルな工夫ほど効果的だったりします。
和食店のメニューも然り。「松・竹・梅」の3つの価格帯があると、多くの人が真ん中を選ぶ。これは「極端性回避」という心理です。お客様に選択肢を与えながらも、自然と店側が望む商品を選んでもらう仕組みです。
この『ナッジ』の考え方、実は私たちの日常の営業活動や顧客対応にも応用できます。
例えば、「○○サービスをご利用いただけます」と提案するより、「○○サービスをお使いにならないと、△△の機会を逃してしまいます」と伝える方が、お客様に強く意識してもらえるかもしれません。
大切なのは、相手の立場に立って「どんな言葉や環境があれば、行動しやすくなるか」を考えること。押し付けるのではなく、そっと背中を押してあげる。そんな優しい営業スタイルが、結果的に長期的な信頼関係を築くことにもつながるのではないでしょうか。