
行橋に引越してきて、ちょうど1年が経ちました。生活のリズムもずいぶん変わりましたが、その一つが「NHKの朝ドラを観る」習慣です。毎朝決まって8時に朝食をとるので、自然と観るようになりました。なるほど、朝ドラというものは規則正しい生活を送る人のためにあるのですね。
いま放映中の『風、薫る』は、明治時代に日本で初めて正規の看護婦となった2人の女性の物語です。劇中で、彼女たちがナイチンゲールの著書に出てくる単語「observe」をどう訳すか、時間をかけて議論する場面がありました。
今でこそ「観察」とすぐに訳せますが、当時はまだその言葉が浸透していなかった時代。ドラマでは、哲学者・西周が「觀察」という訳語を当てたと紹介されていました。
私はその場面を観ながら、「言葉を作る」ということの重みを改めて感じました。私たちが何気なく使っている言葉の一つひとつにも、誰かが悩み抜いた痕跡がある。そう思うと、受け止め方が少し変わります。
仕事柄、「どんな言葉を使うか」は、いつも頭の片隅にあります。同じ内容でも、言葉が少し変わるだけで、伝わり方が大きく変わるからです。「伝える」と「伝わる」では、似ているようで印象が違います。「顧客の囲い込み」と「顧客との関係性づくり」もそうでしょう。言葉は単なる記号ではなく、その人の考え方や姿勢まで含んでいます。
そんな私が折に触れて思い出すのが、フランスの作家フローベールの言葉です。彼は弟子のモーパッサンに、こう言ったとされています。「その場で最も正確で、最もふさわしい言葉が見つかるまで探せ。おおよそで満足するな」ーいわゆる「唯一の言葉(le mot juste)」です。私はそこまで完璧主義にはなれません。締切もありますし(笑)。それでも、フローベールの教えは書き仕事をするうえでの、静かな戒めとして胸に残っています。
ニュースレターの取材中でも、経営者の方が何気なく話された一言に、その会社らしさが詰まっていることがあります。だから私は、「正しい言葉」より、「その人にしか出てこない言葉」を探しています。
あなたの中にも、まだ言葉になっていない大切な想いがあるかもしれません。そんな「唯一の言葉」を、一緒に探していけたら幸いです。